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2006/02/18

翼宿のショート・ショート(ふしぎ遊戯)

またまた、『ふしぎ遊戯』関係で懐かしいものを発掘。
なんと、10年以上前にニフティの某会議室のアップしたショート・ショートが見つかりました。


若気の至りで、もはや恥ずかしくて正視できませんが(笑)、せっかくだし、記念に貼り付けておくか(笑)。




翼宿







翼宿(たすき)……侯俊宇(こうしゅんう)・幻狼(げんろう)
(翼宿星はコップ座にある!?)
レイ カク コウ タイト
出身 :紅南国 勵(ほんとうは厂に萬)閣山ふもと,格州 泰斗市出身
(県?)
家族 :両親と姉5人の女系家族
「ここらで彼の女嫌いが形成されたのでは……」(作者談)
身長 :178cm(17歳)→183cm(19歳)
趣味 :喧嘩
血液型:B
能力 :格闘技全般,駿足,鉄扇で烈火神焔を使う
色 :レッド
異性 :一緒にいて楽しめる子・男を立ててくれる子
好き :仲間,強い奴に挑戦すること,義理人情
嫌い :卑怯な人間,裏切り,泳ぐこと

まるでガキ大将がそのまま大きくなったような,男気の荒い少年。
勵閣山の山賊の頭にホレ込み,その世界へ入った一本気な性格。
あこがれの頭めざして他の山賊に一目おかれるほどみるみる腕を
上げた彼は,次期頭候補として鉄扇の技を伝授されるが・・・

#あの睿俔はその技を陰でこっそりきいていたので鉄扇を扱えたの
だった。だから世界中であの鉄扇から炎を出せるのは翼宿だけな
のだよ。すごく重たいし・・・

今は親友・功児に,代理頭としてあとをまかせて美朱達と行動
している。
バカ正直で単純でケンカっ早くて,そのくせ義理人情に厚くて
涙もろく照れ屋である。スナオになれなくていつも悪ぶっては
いるが,誰よりも「男」!している奴である。

親友:功ちゃん(19歳/翼宿17歳当時)
翼宿の次の頭候補だった彼は翼宿の男意気にホレ込んでいる。
「幻狼のいうことやったらなんでも聞くで」



そうそう、以前設置したweb拍手絵は、朱雀七星士のもので、計7枚あります。
が、管理人の偏愛のために2枚ある人がいるので、かわいそうに、ひとりだけ登場しません。ごめんよ>○宿。

ということで、ここからショート・ショート本体


「そりゃあ!でえぇーい!」

 紅南国勵閣山中には,近辺のものから恐れられている山賊の集落がある。

 山賊といえども,その頭を中心に指揮系統はしっかりと行き届いており,
小さな軍にも相当するほどの力を有しているため,役人もうかつには手が
だせないでいる。
 もっとも,頭の人柄のためか,それほど大がかりな略奪が行われるわけで
もなく,時折旅人などから「通行料」を巻き上げる程度で,滅多に人の命を
奪うようなこともないので,今のところは私的な「関所」として黙認されて
いる状態である。

 山賊の頭目がいる館は,周囲が頑丈な柵で囲われ,矛を持った手下が見張
りに立っており,ちょっとした砦といったところである。

 その中庭で,今,まだ若い男が,なにやら重そうな得物を一心に振り回し
ているところであった。朱みがかった髪の毛は少し逆立ち,汗の浮かんだ顔
は幼さを残しながらも,その二つ名通り野生の狼的な趣を備えている。

 その男の名は侯俊宇(こうしゅんう),通称を幻狼という。

「どや,幻狼。少しはこつが掴めたか?」
「あ,頭。いやぁ,まだあかんわ。もうちょっとみたいな気はしとるねんけ
ど」

 幻狼に声をかけた男は,この館の主人でもある,山賊の頭であった。
 すでに初老の域に差し掛かり,髪にも白いものがまざってはいるものの,
その鋭い眼光とたくましい体つきはやはり頭と呼ばれるにふさわしいもので
あった。幻狼が心から尊敬している人物である。

「そうか,ま,あせらず気楽にせぇや。まだまだわしかてくたばる歳やない
し,お前がその鉄扇を自由に使えるようになったからいうて,すぐに頭の
座を譲るほどお人好しでもないで。覚悟しときや」

 頭はそう言うと豪快な笑い声を上げた。
 彼は,ある日突然幻狼が自分のところへ転がり込んできたときに,人目み
て気に入り,以来ずっと自分の手元に置いて面倒を見てやってきたのであっ
た。その『面倒』の見方はさすがに山賊ともいうべきもので,かなり手荒な
ものではあったが,しかし彼にとっては幻狼は自分の息子も同然である。

 もちろん,幻狼もそのことを恩義に感じている。
 頭から教えてもらった鉄扇の使い方を早く覚えたいと,毎日練習をかかさ
ぬのも,それをすることが少しでも恩返しになればという気持ちからでもあ
った。

 まもなく頭は館へと戻り,幻狼はまた鉄扇を振りはじめた。

「幻狼さん!」

 再びかかった声に振り向くと,そこには同じように頭にみこまれ,共に暮
らしてきた山賊仲間達がいた。
 今声をかけたのはそのなかでもっとも若い,12歳の少年であった。名前
を漣黄(れんこう)という。幼い頃母親を亡くし,また昨年父親もなくして
身寄りのなくなった彼は,あてどもなく歩いている所を頭に拾われたのだっ
た。
 まだ山賊の仲間になって日も浅い彼は,その風貌とは裏腹に意外と面倒見
がよい幻狼に特に懐いている。

「特訓ですか,でもその鉄扇ってすごく重いんでしょ?」
「ああそうや。どや,一度持ってみるか?」

 幻狼はひょい,っといった感じで鉄扇を漣黄に手渡したのだが,漣黄は支
えきれずによろめいてしまう。確かにこれはただ振り回すだけでも一苦労な
のである。ましてや……

「頭みたいに使うにはまだまだやな。俺がいくら振っても火ィはちょろっと
もでやせん」

 この鉄扇は特殊な力を持っており,念を込めてふれば『烈火神焔』とよば
れる,獲物だけを焼き尽くす炎を出すことができる。しかし,それが出来る
のは今のところ頭しかいない。

「せやけど,お前はこれが使えるようになるって頭に見込まれた男や。すぐ
に炎も出るようになるやろ」

 そういったのは,幻狼より二歳年上ではあるが,まったく対等に,本当の
兄弟のようにしてきた親友である功児であった。
 彼は幻狼の男気に惚れ込んでおり,本来の頭候補と言われていながら,年
下の幻狼にその座を譲ったのである。

「ねぇねぇ,幻狼さんはどうして山賊になったの?」

 倒れかけたところを幻狼に支えてもらいながら,漣黄が尋ねた。

「そやな,ここの頭の人柄やな。山賊とはいっても一本筋の通ったところが
あって,なにより情に篤い。そんな頭にあこがれて裸一貫で転がり込んで
きたんや」
「なに格好つけとんや。単に家でこき使われるのが嫌で家出してきたんやな
かったか?」
「う,うるさい,だまっとれ,功児!」

 幻狼は思わず功児の頭をなぐりつけた。

「よぉ『翼宿』毎日ご苦労やな」

 そんなところへ,耳障りな声が聞えてきた。見ると,太った,猪のような
脂ぎった顔で,にやにや笑っている男がいた。男の名は睿俔。腕っ節は強く
それだけなら頭候補になっても不思議ではないほどだが,いかんせんまわり
からは鼻つまみ者扱いされていた。

「なんの用や,睿俔。俺のことそう呼ぶなていうとるやろ」

 幻狼は鋭い目つきで睿俔をにらみつけたが睿俔はまるでこたえていない。

「別に用なんてないわ。まぁせいぜい頑張りや,『翼宿』」

 再び幻狼のことをそう呼ぶと,そのまま立ち去っていった。

「気にするなや。あいつ,次の頭に自分が選ばれへんかったいうて逆恨みし
とるだけや」

 功児がそう言ってとりなすが,幻狼はまだ睿俔が立ち去ったほうをにらみ
つけたままだった。

 『翼宿』……そう,幻狼にはもう一つの名前があった。しかし,彼はこの
名を嫌っていた。

 彼は幼い頃から,感情が高ぶったりすると,右腕に『翼』という字が赤く
浮かび上がり,同時に普通では考えられないほどの力が出て驚くことがあっ
た。

 一度,頭の前で字が浮かび上がったとき,彼はこういった。

『幻狼,お前,宿星をもっとるな』
『宿星?』
『わしが聞いた伝説では,この紅南国が乱れるとき”朱雀の巫女”いう女が
現れるんや。その女が現れたときには”七星”いう連中が集まってそいつ
を護るんやそうや。”七星”は身体のどっかに字ぃもっとるんやと』
『ほいたら,俺はその七星かい?』
『そや。字が”翼”やさかい,さしずめ”翼宿”ってとこか」
『あほらしい,俺は俺や。なにが”翼宿”や,頭も冗談きついわ。大体,俺
が女を護るみたいな殊勝なことやりまっかいな。二度とそんな呼び方せん
といて下さい』

 幻狼はそのときはそう笑い飛ばしたのであった。
 このときそばで聞いていた何人かはその『翼宿』という呼び方を知ってお
り,とくに睿俔は彼がその名を嫌っていることを知っていて,わざとそう呼
んでいるのであった。

「なにが宿星や。俺はずっとここにおってみんなと楽しくやってくんじゃ」

 幻狼はこう呟き,また鉄扇の特訓へと戻っていった。

==================================

 そんなある日のこと。

 幻狼が漣黄を連れてふもとの町まで買い出しに出たその帰り,山の中ほど
まで来たときにはすでに暗くなりはじめていたが,そのとき突然女の悲鳴が
響き渡った。

「なんや?」
「仲間が旅の女でも襲っているんでは?」
「いや,今日はこの辺で『仕事』についとる奴はおらんはずや……」

『ひょっとしたら……最近俺らの縄張りまで手ぇ伸ばそうとしとる奴らがお
るって頭がいうとったけど,そいつらかもしれん。そうやとしたらほっと
けんで……』

「いくで,漣黄!」
「はいっ!」

 悲鳴のしたほうへ駆けていくとまもなく,一人のまだ幼さの残る娘が,
三人の得物を持った山賊達に囲まれているのが見えてきた。
 幻狼にはその山賊達は全く見覚えはなかった。

「ちぃ,やっぱり縄張り荒らしかい。ちょっとここでまっとれ,漣黄」

 そう言って駆け出した幻狼は,漣黄の目には一瞬消えたかのように見え
るほどの動きで山賊達の元まで一息にたどり着き,瞬く間に三人とも素手
でうち倒してしまった。

「あ,あの危ないところを……」
「こんな遅うに女ひとりで,なにこんなとこ歩いとんじゃ。町でおとなし
ゅうしとれや!」

 娘が礼をするのを遮るように怒鳴りつける幻狼であったが,近くに居た
漣黄にはその顔が赤くなっているのが月明かりの中で見て取れた。

「あの,私実は,幼馴染をさがしているんです。ある日突然村から出てい
ってそれから何年も行方がしれなくて……。つい先頃,風の噂であの人
が山賊になった,というのを聞いて,とりあえず確かめようと思ってこ
の勵閣山に来てみたんですけど……」

 やがて落ち着いた娘は鈴憧(りんしょう)と名乗り,旅のわけを話はじ
めた。

 簡素だがこざっぱりとした旅装をしており,美人というわけではないが
少し丸みのある顔立ちは愛敬があり,さぞ明るく笑うだろうと思わせる。
 なにより一際目立つのはその長い黒髪であり,手入れをしている風でも
ないのに癖も無くまとまっており,ちゃんとした格好をさせればさぞ映え
るだろうと思えるほどに見事な烏の濡れ羽色であった。

「なんか話だけ聞いていると,幻狼さんのことを言ってるみたいですね」
「え?」
「あほいえ,俺は確かにある日突然家出てきたけどな,こない親身になっ
て探してくれるような気の利いた幼馴染なんぞおらへんわい」
「ええ,それにその人の名は『犀鵠(せいこく)』ですから・・・」

「そんなに親身になって探すってことは,ただの幼馴染じゃないんでしょ
う?」

 少しませた口調でそう尋ねる漣黄に,鈴憧は少し顔を赤らめながら,

「ええ……許嫁でも,あります」

と答えた。

「犀鵠かぁ,そんな名前の奴はうちにはおらんなぁ」

 何故かぶっきらぼうな口調でいってしまい,そんな自分自身に幻狼が戸
惑っているうちに,そう聞いたとたんに落胆した表情になった鈴憧をみて
気がつくとこう声をかけていた。

「なんやったら,俺らんとこに来てみるか。荒っぽい連中ばっかりやさか
い怖かったらさっさと帰ったほうがええ思うけどな,もしかするとその
犀鵠ってやつのことなんか知っとるのもおるかもしれんし」

『なに考えとんや,俺……』

 とたんにぱっと顔を輝かせて『行きます!』といった鈴憧を伴い,彼女
がもう漣黄と打ち解けて話しながら歩いているのを横目で見ながら,幻狼
は自分の気紛れに困惑するのだった。

--------------------------------------------------------------------

 結局,幻狼の仲間には自分の幼馴染は見つからなかったということだった
が,鈴憧はなんとなくそのまま勵閣山にいついてしまっていた。

「早く犀鵠を探したいのはやまやまなんですけど,むやみに歩き回っても仕
方ないですし……。お願いします,ここに置いていただけませんか。私に
できることならなんでも手伝わせていただきますから。それで,もし他の
山賊の噂なんかがありましたら,教えていただきたいのです」

 何度もそう頼む鈴憧に,最初は普通の娘がここで暮すことに難色をしめし
ていた頭もついにおれ,滞在を認めたのである。

 実際,鈴憧は働きもので,また不思議に愛敬があり,山賊達の中で,それ
も普段女のことを商品のようにしか思っていないような連中にまで,いつの
まにかすっかり打ち解けていた。

「なんか調子くるってしまうなぁ,あそこまで無防備に笑顔ふりまかれると
こっちは山賊やってこと,忘れてしまうわ」

 功児などもそう言って,あきれつつ感心しているようであった。

 幻狼も実は,ずっと調子が狂いっぱなしの自分に戸惑っていた。
 女が苦手なことを自他共に認めている自分が,なぜかあの娘はそれほど嫌
いではないことを自覚し始めたのだった。
 それどころか……ときとしてそれ以上の感情がともすれば浮かびそうにな
るのを幻狼は必死に否定していた。

==================================

 ある夜のこと,急に頭に呼び出された幻狼が行ってみると,普段は滅多に
見せないような難しい顔をした彼が待っていた。

「最近,わしらの縄張りで収穫が落ちとんのは気付いとるか?」
「はぁ,俺もおかしいと思うとりましたんや」
「どうも,前にちょっというとった奴等な,あいつらが本格的に動きはじめ
たようなんじゃ。それでも今まではこっそりとわしらがおらんのを見計ら
って横取りするくらいやったのが,今日は『仕事』にはっとったわしらの
仲間どつき倒して奪いおったらしいんじゃ」
「な,なんやて!」
「手口があくどなったんもそうやけどな,どうも『仕事』の場所を前もって
しっとったんやないか,思うんや。だれかがわしらの内情ながしとんとち
ゃうか,おもてな。心当たり無いか?」
「頭,まさか鈴憧のこと疑うとるんですか?」
「はっきりそうやとはまだ言えんが……ちょっと気ぃつけとけや」

『確かに,いつのまにかみんなに打ち解けてもうたさかい,俺らがどう動い
とるかも鈴憧は承知しとる……そやけど……』

 そして,次の日。

 幻狼は,町へ買い出しに行くという鈴憧の後をこっそりつけ,そこで見て
しまったのだった。
 あの晩,鈴憧を襲っていたはずの山賊の一人と,人目をはばかるようにし
てなにか話している鈴憧を。

 幻狼はしかし,なぜかそこで飛び出す気にはなれずに,そのまま勵閣山へ
と引き返した。仲間にも自分が見たことは話さなかった。

 その夜。皆が寝静まったのを見計らい,幻狼は鈴憧にあてがわれている小
屋へと忍んでいき,昼間の件を問い詰めた。

「もうわかってしまったのですか……意外と早かったですね」

 鈴憧はあっさりとそう言って,薄く笑った。

「そのとおりです,私はあの山賊達と通じていました。ときどき山をおりて
ここの動きを報告していたんです」
「お前,いったい何者や!何が目的なんや!」
「私は犀鵠の婚約者と名乗りましたが……それは本当です。そして,あの人
の望みはこの勵閣山を手に入れて名を上げること……私はあの人を愛して
います。あの人が望むことなら,例え魂を売ってでも叶えてあげたいので
す」

 そう言った鈴憧の瞳はまっすぐで,嘘はなかった。ただ純粋にその男を愛
しているのだ……幻狼にもそれはわかった。

「いけ・・・」
「え?」
「はよこの山を降りてどこえなっと行ってしまえ。そうしたら,今までのこ
とは黙っといてやる……」

『自分は頭の資格はないな……』

 思いながらも,幻狼はそう言うことしかできなかった。

「やさしいのね……でももう遅いわ」
「なに?」
「もうすぐ,ここはあの人と部下に襲撃されるはず……勵閣山の山賊が恐れ
られるわけは,鉄扇の能力が大きいけれど……あれは今頭の手元にはなく
あなたが持っている。そしてあなたにはまだその能力は使えない……今日
町で伝えたのは,そのことだったのよ」

 その台詞が最後まで聞こえる前に,外で怒号と悲鳴が響き渡った。

「しゅ,襲撃だあ!」

 幻狼が外に出たときには,遠くですでに戦いは始まっていた。

 相手はこちらの陣形を知り抜いているらしく,的確に防護の隙をついてせ
めて来ているようだ。仲間達が慌てふためいているのが見える。
 急なことであり,眠っていたものも多い。加えて建物に向けて火矢も放た
れており,さらに混乱の度合をふくらませていた。

 もはや鈴憧にかまっているわけにはいかず,幻狼も戦いが起こっている場
所へ駆けつける。

「頭は……」

 『火』を使うことの出来ない鉄扇をもどかしげにふるって敵と戦いながら
懸命に頭を探す幻狼であったが,遠くに見つけたときにはとても近づいて鉄
扇を渡す余裕はなかった。

「勵閣山は俺がもらうぜ!」

 そう叫びながら剣をふるっている人物は,恐らく向こうの頭,鈴憧の許嫁
という犀鵠であろう。その目は野望をもつ者特有の狂気をもっていたが,し
かし,強い。
 今もまわりにいるものはつぎつぎに切り伏せられていく。

 幻狼はその男の方に向かって駆けた。

『たぶん,あいつとまともに戦えんのは頭か俺ぐらいや……』

 しかし,犀鵠の強さは想像以上だった。加えて,扱いやすい武器とはいい
かねる鉄扇と剣とではまともに打ち合ったら不利は否めない。徐々に押され
ていく自分に幻狼はあせりを感じていた。

 その時である。

「お前の女は捉えているぞ,殺されたくなかったら武器を捨てろ!」

 思わずそちらに目をやると,漣黄が鈴憧の首に剣をつきつけていた。

「幻狼さん,さっきの話,立ち聞きしてしまいました。僕には,この女は許
せません!」

 そういう漣黄の声は,しかし震えていた。
 彼は幼い頃亡くした母親の面影を鈴憧に見ていた節がある。それだけに衝
撃は大きかったであろう。顔を上げないのは,泣いているからではないか。

「さぁ,はやく武器を捨てるんだ」

 だが,犀鵠から帰ってきた返事は冷酷なものであった。

「好きにしな。どうせそいつはここに忍び込ませるのに都合がよかったから
利用しただけだ。普段からうるさく付きまとわれていたんだ,却ってせい
せいすらぁ!おい,かまうこたぁねぇ,あいつごと始末しちまえ!」

 その声に応じて,数本の矢がねらいあまた漣黄と鈴憧の方へ飛んだ。
 漣黄は衝撃の,そして鈴憧は凍り付いたかのように白い表情のまま,その
場に倒れた。

「漣黄!」
「けっ,ばかなやつらよ」

 あくまで冷酷につぶやくと,再び幻狼の方に打ちかかる犀鵠。
 幻狼は辛うじて鉄扇で受け止める。

「どうしたぃ,炎の出ない鉄扇なんざ,まったく手応えがねぇやな。つまら
んぜ」
「……おんどれ」
「んン?」
「おんどりゃああぁぁぁぁぁぁ!」

 幻狼の右腕が赤く光る。浮かび上がる『翼』の文字。

「うおおぉぉぉぉ!」

 そして,振りおろされた鉄扇からは,全てを焼き尽くすかのような炎が吹
きあがった。そしてその炎こそが,『烈火神焔』であった。

「!……」

 炎につつまれ,声を上げる暇も無く燃えつきる犀鵠。

 そして,頭目を失って浮き足立った敵の山賊達は総崩れとなり,まもなく
破れ,散り散りに去っていったのであった。

 幻狼はもはや動かなくなった二人のもとへ歩み寄った。

 二人は重なるように倒れており,鈴憧のあの長い黒髪が血に染まって二人
に絡み付いていた。

 幻狼は虚ろに開いたままの二人の瞳をそっと閉じさせた。

--------------------------------------------------------------------

 ひっそりとたたずむ二つの墓の前に立つ幻狼。しばらく閉じていた目を開
けると,やがて語りかけるように呟いた。

「漣黄,お前,死ぬ前に鈴憧は許せん,いうとったな。せやけど,ほんまは
信じたかったんやないか,あいつのこと。あいつのほんまの顔は,いつも
俺らにむけとったみたいな,あのわろとる顔やて。あのなんも知らんあほ
みたいに純粋なあいつが,ほんまのあいつやないかって」

『俺がそやさかいにな……』

 最後は言葉には出さず,持っていた花を添えると,ゆっくりとその場を立
ち去る幻狼……今,その右手にはきつく布がまかれていた。

『なにが,朱雀の巫女を護る力や。あんなもんあったって,結局ひと一人護
れんかったやないか。なんの意味があんねん……』

--------------------------------------------------------------------

「……き,翼宿ってば!」
「うん?なんや……」
「翼宿,起きてよ,ご飯だって。早く来ないと翼宿の分まで食べちゃうよ」

目を覚ますと,美朱が目の前にいた。どうやら飯に呼びに来たらしいが……
俺は,うたた寝していたのか?

「ふふっ」
「な,なんや,なにがおかしいんや?」
「だって,翼宿,涙のあとがついてるよ。なんか怖い夢でも見たの?」

急いで目許にふれると,確かに微かに冷たいような……。

「あほ,俺が夢で怖がるわけあるかい!」

『ちょっと昔のこと思い出しただけや』

とは,なぜか美朱には言えなかった。

「ふーん。まぁいいや,早く来てね」

そういって美朱は出ていった。

『せやけど,ほんまに俺,なんであんな奴をほっとけん,って思ってしもう
たんやろなぁ・・・』

(終わり)


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